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更新日: 2020年03月11日
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激戦区・西麻布で江戸前の伝統を守り続ける『寿司勇』大将、島崎大輔さんの感性に響く道具

寿司バブルともいわれる昨今、激戦区の西麻布界隈で知る人ぞ知る隠れ家的名店として名を馳せる『寿司勇』。伝統的な江戸前の仕事に店主・島崎大輔さんの感性が加わった正統派の味は、どんな道具から生み出されるのか。……一流の料理人が自ら愛用する3つの道具へのこだわりを語り、料理への哲学を詳らかにする連載『料理のプロの三種の神器』です。(2020年3月11日公開)

石黒由紀子
エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなし...
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西麻布の路地裏で47年の伝統を守りつづける一軒家寿司店『寿司勇』

西麻布の寿司店「寿司勇」の外観
星条旗通りの一本裏手、西麻布の路地に佇む一軒屋。
門をくぐり、趣のある蔵戸を開けて中に入ると、天井が高く、ゆったりとした店内。中心にはヒノキ一枚板のカウンターが堂々と。
西麻布の寿司店「寿司勇」の内観
窓には透かし彫りが施された建具、カウンターの中にある棚には面取りされた棚板と、「細部までていねいに作られた店」というのがわかる。
どうにも緊張しがちな「品書きのない店」だが、ここ『寿司勇』には、どこかほっとできるようなあたたかな空気が流れている。
西麻布の寿司店「寿司勇」店主の島崎大輔さん
主は島崎大輔さん。
「もとは六本木通り沿いに店がありました。47年前に父がはじめた店です。現在の場所に引っ越してきたのは10年前。一軒家をリノベーションしましたが、建築家へのリクエストは『カウンターはヒノキで』ということだけ。特にこだわりはなく、あとはお任せでお願いしたんです」

こだわりがないのは道具に対しても同じだと笑う。
「包丁なら切れさえすればいい。この連載に僕で大丈夫でしょうか」

自分だけのベストバランスを実現するフルオーダーの柳刃

西麻布の寿司店「寿司勇」の柳刃包丁
そんな島崎さんがまず紹介してくれた道具は柳刃包丁。刀鍛冶でもある吉川尊久さんにオーダーして作ってもらったものだ。
「つけ場に立つ間はほとんど握ってます。これは、使ってまだ10年くらいですね」
柄の風合いから使い込んでいるなと感じるが、刃は新品に見えるほど輝いて、表面にはなにやら美しい模様がある。
「これは“墨流し”と言うんです」
水面に墨をたらし、油をつけた楊枝の先などで軽くかき混ぜることでできた模様を和紙などで吸い取る手法が「墨流し」。包丁における「墨流し」は、地鉄と鋼を何層にも折り曲げて重ねて鍛造することで包丁の表面にできる模様のことを指す。

「切るときは魚の身が潰れないようにやさしく。まな板に叩きつけるなんてことはありません。骨を切るときも、骨と骨の間にある軟骨部分に刃を入れます」
基本的な使い方を守っていれば包丁の切れ味は落ちない。研ぐのは年に3〜4回くらいだそう。
西麻布の寿司店「寿司勇」の柳刃包丁
「吉川さんの包丁に出会うまでは『有次』の包丁を長年使っていました。満足して使えるよい道具で今も好きです。それでも吉川さんに作ってもらったのは、自分だけの一本を持ちたかったから」
自分だけの一本のため細部にわたってリクエストを出すなかで、特にこだわったのは重さと厚み。

「魚を切るときは包丁の重さを利用して“引く”感じなので、“重さ”が重要なんです。そして、バランスを保ちながら重さのある包丁を扱うには“厚み”も必要になってくる。柄は黒檀や紫檀を好む人が多いのですが、僕には硬くて重すぎる。一番安い朴の木でできた柄のほうが、やわらかくて握りやすいんです」

島崎さん、こだわりがないわけではない。
自分の好みと意図を理解するプロフェッショナルに出会ったら、その人に委ねる。こだわりと信頼の線引きが明確なのだ。

完成まで5年待った出刃

西麻布の寿司店「寿司勇」の出刃包丁
出刃包丁は使いはじめて5年ほど。
「できあがった吉川さんの柳刃をはじめて使ったとき、すぐに自分の手になじんで意のままに使えました。想像はしていましたけど『やっぱりすごいな』と思って、即座に出刃もお願いしたんです」
吉川さんはかなり忙しいので、出来上がるまでに5年かかった。
西麻布の寿司店「寿司勇」の出刃包丁
柳刃の場合は刃の全体を使って切るが、出刃で切るときは刃先から2/3くらいまでを使い、刃元近くを使うのは骨など硬いものを叩くように切るとき。
持たせてもらったら、イメージ以上に重かった。これを握って大きな魚をさばくのはさぞ大変なことだろう。ところが……。

「ある程度重いほうが疲れないんですよ。軽いとパワーが足りないというか、包丁に自分の力を乗せて切らなければならない。大きな魚を1匹さばくときは大きな出刃で、半身のときは少し小さい出刃でと使い分けます」

西麻布干しのサバはふっくらとやさしい味

さて。ここで島崎さんの料理をいただくことに。
「寿司屋だからといって“握り”ではつまらないでしょう」と、まず出てきたのは、干物。
え、干物ですか……?
西麻布の寿司店「寿司勇」のサバの干物
「寿司屋で干物って、とよく笑われるんですが、うちの名物です。みなさん、おもしろがって食べてくれます。これ、そこで干してるんですよ」
そう言って店の裏木戸のほうに視線。に、西麻布干しですか……。
昼の仕込み時間にさばいて干して、夕方の開店前には取り込む。その間約5時間。季節やその日の天候にもよるが、それくらいで十分風味もつき、ほどよい干物ができあがる。

「干物は通年出していて、今日はサバですが普段は赤ムツを干してます。春先ならアジ。8月くらいから釧路のサンマ、秋口にはカマスも使います」
すだちが添えられている。「どうぞ」促されてひとくち。おぉ、確かにちゃんと干物!  東京は港区の真ん中で半日干された魚の味は、想像をはるかに超えて、ふんわりとやわらかく、やさしい味。
魚本来の旨みにおひさまの香りも乗って、上品な味だ。旨いものを食べ尽くした常連客を喜ばせるのは、こんな変化球なのだ。

既成概念を覆す、透き通ったつゆのブリ大根

西麻布の寿司店「寿司勇」のブリ大根
2品目はブリ大根。
鉢の中にあるのは、透き通ったつゆに気持ちよさそうに肩のあたりまで浸った白い大根とブリ。上に柚子がちょんと乗っている。
言われなければ「ブリ大根」とは思えない。だって「ブリ大根」といえば、醤油しみしみが定番。茶色ければ茶色いほどおいしいはず。こんなにきれいな薄い色のブリ大根があったのかとしみじみ見入ってしまった。

「ブリの骨だけでだしをとっているんです。いつもは富山の氷見産を使うのですが、2月も中頃になるとなかなか入ってこなくて、今日のは石川県の能登で獲れたものです」
ブリ丸ごとを生かし、味わえる逸品。さっぱりとしていているけれどブリの脂感も舌に残る。大根にもブリの風味が染み込んで、これがブリそのものの味なのかと、ゆっくり味わった。今まで、だしと醤油の味を「ブリ大根」の味と勘違いしていたんだなぁ。

島崎さんは「特別なことをやっている」とは決して言わないが、透明なブリだしと美しく立つ大根の姿にていねいな仕事ぶりが見え隠れしている。人と違うことをやるのが、島崎さんらしさなのかもしれない。

おろし金は寿司屋にとってなくてはならない道具

西麻布の寿司店「寿司勇」のブリの刺身
「こちらも召し上がってみませんか」と出してくれた小皿には、たっぷりの本わさびがのったブリの刺身。
「わさびが多いように思われるかもしれませんが、辛みはきつくないので大丈夫です」

少し躊躇したものの思いきってひと口で。おっ、このわさびの辛さはブリの脂と溶け合う。味のアクセントとしての辛みじゃなくて、本質的に味わいの一部となっている。
「本来、本わさびはそれほど辛くないんです。これは御殿場産の本わさび。寿司に合うわさびというと、御殿場、天城や伊豆など静岡産がいいように感じます。粘りが違うんです」

このわさびの香りを引き出すおろし金が、島崎さんがこだわる3つめの道具。
「こだわりもなにも、寿司屋にとってなくてはならない道具です」
西麻布の寿司店「寿司勇」おろし金
こちら、京都の名店『有次』のおろし金。堂々として絵になる道具。使い込まれているのがよくわかる。使い込み、同じタイプのものを買い替えて、この20年で現在4枚目。これもまた「手に馴染みがいい」ということらしい。

「やっぱり『有次』には安心感がありますね。使っているうちに刃が痛んでくるので、タガネで目を立て直してもらったり錫をひき直してもらったり、何度もメンテナンスしながら使っています。だいたい5年くらい使うと、さすがに次にバトンタッチという感じです」
西麻布の寿司店「寿司勇」のおろし金
『有次』のおろし金は刃並びが微妙に不規則に作られているので、あまり力を入れなくても素早くおろせる。おろすときは、まあるくまあるく円を描くように。これはわさびの繊維を切るためだ(しょうがや大根も同じこと)。
使い込まれたおろし金には、きれいに円が描かれている。

父の背中を見て学んだ江戸前の伝統

「こだわりはない」と言いながら、目的を達成するためなら道具への要求には妥協しない。そんな島崎さんは『寿司勇』の2代目にあたる。
「大学は農獣医学部。寿司屋を継ぐつもりはなかったけど、修行していた兄が途中で辞めたこともあって、20代前半から父親の店に入るようになりました。父は仕事を細かく教えてくれるタイプではなかったですね」
父の背中を見ながら学び、片腕として20年以上同じ店に立ち、いつしか自分のスタイルを確立した。
西麻布の寿司店「寿司勇」の店主・島崎大輔さん
仕込みの忙しい時間の中での取材だったが、ていねいに率直に話をしてくれた島崎さん。店が休みの日は家族と過ごし、趣味のバイクやスキーも極める。
「バイクは16歳から。18歳で大型免許を取ったので、寿司より歴史が長いんです。バイクとクルマだったら、包丁よりこだわりますよ(笑)」
店に入ったときに感じた「あたたかみ」は、島崎さんの人柄がにじみ出たものだった。
リラックスした雰囲気の中で、ゆっくりとおいしい魚と握りをいただける、こんなお店の常連になりたいものだ。
西麻布の寿司店「寿司勇」の店主・島崎大輔さん
島崎大輔(しまざきだいすけ)
西麻布『寿司勇』2代目店主。寿司職人のキャリアは22歳から。先代である父の背中を見て学び、片腕として約20年ともに店に立つ。農獣医学部の出身で、外国語にも堪能。握りや料理の味だけでなく、島崎さんファンの常連も多い。
西麻布の寿司店「寿司勇」の外観
(写真=松園多聞 Matsuzono Tamon)
西麻布『寿司勇』
先代が六本木に店を開いて47年。「あまりマスコミに登場しない名店」として知る人ぞ知る、西麻布の隠れ家的寿司屋。アットホームな雰囲気の中、正統派の江戸前にぎりをはじめ、ていねいな仕事で旬の魚を楽しめる。個室もあり。
石黒由紀子
エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなしあわせを綴るほか、女性誌やWEBに、ペットや本や映画のリコメンドを執筆。楽しみは、散歩、旅、おいしいお酒とごはん、音楽。近著は『楽しかったね、ありがとう』(幻冬舎) http://www.blueorange.co.jp/yuruyuru/index.htm

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