更新日: 2023年01月05日
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地鶏の旨みを自在に引き出す銀座『バードランド』の洋包丁/第1回後編

シンプルがゆえに素材、調理方法のどれもが味を左右する焼き鳥において、銀座『バードランド』の仕込みを担っているのは、意外にもモダンな洋包丁なんです。——道具へのこだわりがおいしさを生む。連載『料理のプロの三種の神器』では、一流の料理人が愛用する3つの道具へのこだわりを語ります。(2019年7月18日公開)

Sainowaki
シンプルな焼き鳥だからこそ、素材だけでなく仕込みの仕事ぶりが味を左右する。
ていねいな仕込みで重要な道具とはなにか。
ミシュランも認めたワンランク上の焼き鳥店、銀座『バードランド』店主・和田利弘さんが「道具」への哲学を語る連載第1回・後編。

焼き鳥の仕込みには3種の包丁を使い分ける

「牛刀、筋引き、骨すき。いま、主に使っているのはこの3本です」
そう言って、愛用の包丁を見せてくれた和田さん。
いずれも両刃の洋包丁。新潟県のホンマ科学(株)で開発されたブランド、「グレステン」のものだ。
バードランドの包丁
この包丁にしたのは、店をはじめて7年くらい過ぎた頃。
だから、この包丁との付き合いも20年以上になる。
当時、阿佐ヶ谷にあった「バードランド」で採用した料理人が持ち込んだ包丁を見て、和田さんも使いはじめた。
それまでは普通の鋼(はがね)のものを使っていた。

だが、固い鶏の骨が相手だと刃が欠けてしまうことがあった。
「グレステン」は特殊な熱処理をした「グレステン鋼」を使用しているため硬度が高く、鶏の骨相手でも刃こぼれしたことはない。
また、柄の端にバランサー(重み)がついていて、手元が重めに作られている。そのため、もし、足元に落としても刃先から落ちる確率がぐっと低くなる。

「地鶏は骨と肉がしっかりくっついているので、前方に向かって放物線を描くようなイメージで骨と肉の間に刃を入れないと、うまくはずれない。そのためにも、手元が重いほうがバランスをとりやすいんです。この包丁は、肉に刃がスッと入って使いやすいですよ」

グレステンは、刃にウロコのようなくぼみが入っているのが特徴。くぼみがあることで刃と素材の間に空気が入って軽い切れ味になるそうだ。
だがこれ、和田さんにとっては不要なのだとか。

「スモークサーモンのようにやわらかいものを薄く切るわけではないので、私にとっては必要ない。注文するときに『くぼみなしで』と伝えています」
バードランドの手羽先
包丁と言えば「手入れが大切」というイメージがあるけれど、和田さんの場合、週に1~2度研ぐかどうか。
研ぐと言っても念入りにという感じでもなく、「切れ味が落ちたかなと感じたら、シュッシュッと軽く」という程度。

「切れ味が落ちる、その変化をちゃんとキャッチすることが大事ですね。気づかずに使っていれば、包丁はどんどん切れなくなって、手入れにも時間がかかるようになる。切れ味が悪ければ食材の断面はギザギザになって、ということは味も落ちてしまうんです」

丸のままの鶏をさばいて肉片にして、串に刺せるかたちに整える。
日々、かなりの数を仕込むのだから、ほんの些細な切れ味の差も大きなストレスとなってしまう。だから少しの変化も見逃したくない。
バードランドの手羽先
「手羽先」550円(税抜・単品価格)
食材を切るだけなら、いくら切っても包丁が切れなくなるということはないそうだ。切れなくなる理由は、刃がまな板に当たるから。
そして、刃のへり方はまな板がなにでできているかにも関係する。
檜なのか銀杏なのか、プラスチック製か。料理人の使い方のクセによっても刃の状態は変わる。

「よく作られたいい包丁をちゃんとしっかり使っていれば、そうそう切れなくなることはないですよ」

道具全般、いい道具ほど、念入りに手入れをしなくてもパフォーマンスは落ちないということなのかもしれない。
(連載第1回終了)

バードランドの和田利弘
和田利弘(わだとしひろ)
1958年、茨城県生まれ。大学在学中からもつ焼き店で働き、1987年に阿佐ヶ谷にて「地鶏焼きバードランド」オープン。2001年、銀座に移転し、現在は銀座と丸の内の2店舗を取り仕切る。焼き鳥の可能性を追求し、斬新で合理的、率直な人柄で同業者やフードジャーナリストにもファンが多い
バードランドの店内
銀座『バードランド』
茨城の奥久慈軍鶏を紀州備長炭で焼き上げる。串焼きやレバーパテも楽しめるコースを中心に、アラカルトも充実。焼き鳥と相性のいい日本酒やワインも豊富に取り揃える。焼き鳥店として日本のはじめてミシュランの星を獲得し、海外のグルメたちにも人気が高い。奥久慈の軍鶏の卵を使った親子丼やプリンも人気

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