更新日: 2020年02月28日
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駒沢『IL GiOTTO』のオーナシェフ・高橋直史さんが焼きを極めた熟成肉の凄み

駒沢の住宅街にある一軒家レストラン『IL GiOTTO(イルジョット)』の名物は炭火で焼く熟成肉。料理からインテリアまでこだわり満載の空間を作り上げたオーナーシェフの高橋直史さんに、愛用する道具の話を伺いました。……一流の料理人が自ら愛用する3つの道具へのこだわりを語り、料理への哲学を詳らかにする連載『料理のプロの三種の神器』です。(全3話・前編/2020年2月29日公開)

石黒由紀子
エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなし...
駒沢の住宅街にある一軒家レストラン『IL GiOTTO(イルジョット)』のスペシャリテは炭火で焼く熟成肉。ファンの多くがこの肉を味わいにちょっと不便なこの場所を訪れます。肉中心の料理からインテリアまでこだわり満載の空間を作り上げたオーナーシェフの高橋直史さんに、愛用する道具の話を伺いました。(全3話・前編/2020年2月29日公開)

料理も店も、すみずみまでオーナーの美意識に貫かれた駒沢『IL GiOTTO』

駒沢公園通りに面した一軒家。少し訪れにくい場所にあるのは、あえて。
熟成肉と素材を生かしたアラカルトが人気のイタリア料理店『IL GiOTTO』。
料理の味も店内のしつらえもシンプルにして奥深い。
それは、オーナーシェフ高橋直史さんの美学が貫かれているからだ。
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』の外観
店に入ると、ゆるやかに配置された丸いテーブルと椅子。左手奥、カウンターの先にはオープンキッチンが広々と。
なんとシンプルにスタイリングされた空間だろう。そして、品がいい。細部にも気が配られ、あたたかみを感じるしつらえ。
無駄のない動線、ドアノブひとつにしても、考えて、選び抜かれていることがわかる。
あいさつもそこそこに、オーナーシェフの高橋さんにそう伝えると、「ここは建てることを決めてから完成まで、2年近くかかったんです。毎週、休日は建築家との打ち合わせでした」とのお返事。
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』のキッチン
▲一軒家レストランならではの、開放感あふれるキッチン

一分の迷いもない、熟成肉の達人の肉さばき

この心地よい空間で、さっそく名物の熟成肉を焼いてもらう。
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』で熟成肉を切り分けるオーナーシェフ高橋直史氏
「今日焼くのは、宮崎県産のマザービーフ。サーロインです」
そう言いながら冷蔵庫から肉を取り出し、すっと包丁を入れる。ひとつひとつが確信に満ちた動き。一分の迷いもない。
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』の熟成肉ステーキ
厨房奥の自然光が差す大きな窓辺に炭火が入った炉があり、火の具合を見ながら網に肉を乗せる。
あまり動かさず、肉が煤けないよう炎の芯に近いところでどっしりと焼く。表面を焼き固めたら、火から離して肉を休ませつつ余熱を中まで入れる。
その具合、時間、タイミング、ルールのすべては高橋さんの感覚の中にある。

噛むほどにあふれ出す、熟成牛ならではの深い味わい

駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』のマザビーフサーロイン
▲「鹿児島産マザービーフ サーロインの炭火焼き」3,200円(100g・税抜)
焼き上がりのお皿には、カットされた肉が4片。オモテとウラ交互に並び、付け合わせとの分量はバランスよく色鮮やか。

さっそく、肉を口に運び噛みしめると、赤身の肉汁がじわっと湧いてくる。噛むほどに肉の味が力強く深くなる。鼻に抜ける香りも豊か。
ナイフを入れてカットしたときに肉汁は出ない。それは肉の水分がほどよく抜けている証拠、熟成肉のよさだ。

また、こんがり焦げた表面が舌に触れることで「肉を食べている」という実感が湧いてくる。あぁ、飲み込むのがもったいないなぁ。
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』のオーナシェフ高橋直史氏
付け合わせの中で「小さなじゃがいも?」と思ったのは、セルフィーユの根。別名ではセルフィーユルート、ルートチャービルなどとも呼ばれていて、ほっくりとした食感とほのかな甘みにハーブの香り。塩味を利かせた肉によく合った。

よい肉があり、よい焼き手がいて、旨い塩とこしょうとオリーブオイル。究極のシンプルにして大満足。シンプルだからこそ、素材と料理人の技がモノを言う。

おいしいです、高橋さん。
「良かった(笑)。この肉の熟成をつかさどるのが冷蔵庫です。まずは見てください」

冷蔵庫のなかに鎮座する熟成肉ならではの美しいグラデーション

駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』の熟成肉貯蔵用冷蔵庫
冷蔵庫のガラスのドアから見えるのは肉色の赤いグラデーション。
アリゾナのレッドロック? オーストラリアのエアーズロック? いやいや、鮮やかな赤身や骨付きロースの、こってりとカビで覆われた熟成肉だ。
さまざまな肉が、鉱石か美術品のように美しく並べられている。高橋さん、肉コレクターですか?
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』の熟成牛
これらは滋賀県の名精肉店「サカエヤ」から卸されたもの。
一般的に市場流通が少ない近江牛や三重県の愛農学園農業高校で育てられる「愛農ナチュラルポーク」などに「手当て」が施された肉。主役はさまざまな菌を付け熟成させた熟成肉だ。

もともとはいわゆる業務用の冷蔵庫を使っていたそうだ。しかし「肉にとってよりよい環境を」と突き詰め、「専用の冷蔵庫を持つ」ことにいきついた。
「中の空気を循環させることで、肉に付いた菌の状態をよくしたり、肉を休ませておく環境を保ちたいというのが一番の理由です」
肉用の冷蔵庫が市販されているのではなく、高橋さんが「これ」と思う冷蔵庫を肉専用として使用している。

冷蔵庫すらカスタムする高橋シェフの美意識

駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』の熟成肉
「同じ部位の肉でも、大きさや熟成具合などによって、ブロックごとにそれぞれ状態が違います。そのすべてを説明しきれないので、どれが食べたいか、お客さまに実際に肉を見て選んでもらっています」
だから、中が見やすいショーケースタイプを選び、客席に近い店内に置いている。
「そのために、木製の床に冷蔵庫を置く必要があったんです。だけど排水ホースの取り回しが難しくなるので、特別にお願いして10センチほどの脚を付けてもらい、下に受け皿を置くことにしました」

この受け皿が副次的な効果を生んだ。
「肉から抜ける水分量を目で見て確認できるようになったんです。水分を抜くことで肉の味がしまるんですよ」
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』の熟成肉貯蔵用冷蔵庫
業務用の冷蔵庫にも選択肢はたくさんあるはずだ。
「まずは設置場所に見合うサイズの問題。あとは、中の肉がよく見えること。そしてやっぱり丈夫なこと。アフターメンテナンスを考えて、国産のものにしました。北沢産業というメーカーです。冷蔵庫のうしろに照明を付けて、ライトアップしてみました」

「え? ご自分で?」と、聞くと「そうです」と笑う高橋さん。DIYは得意だそう。

ドアに入った赤いラインはカッティングシートによる高橋さんの自作。
「四方に貼ろうかと思ったんですけど、しつこくなるかなと、上下の2辺だけにしました」

頭の中には、完成形がしっかりイメージされている。だから既成品で物足りないときには自らカスタマイズする。
高橋さんのこだわり、美意識はかくも隅々まで行き届いている。そんな空間で過ごす時間が心地いいのは当然なのだ。
便利とは言えない場所にある『IL GiOTTO』に、人々が集う理由がわかる気がした。

(中編に続く)
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』のオーナーシェフ高橋直史氏
高橋直史(たかはしなおふみ)
広尾『イル ブッテロ』で7年間修行したのち、渡伊。ボローニャの『ラ ヴォーリアマッタ』で骨太なトスカーナ料理を学ぶ。帰国後、30歳で独立し、2002年に『IL GiOTTO』を世田谷区駒沢に開店。2011年に道を挟んだ現在地に移転。生産者を訪問するなど、素材選びを大切にしている。シンプルながらエッジを利かせた料理で、炭火をあやつる肉焼きの名手として定評あり。
駒沢のイタリアン『IL GiOTTO』の店内
(写真=松園多聞 Matsuzono Tamon)
駒沢『IL GiOTTO(イルジョット)』
世田谷・駒沢通り沿いにあるイタリア料理店。少し奥まった入り口は、隠れ家的な雰囲気を醸し出す。滋賀の名精肉店『サカエヤ』からの熟成肉を使った料理が評判。アラカルトから食べたいメニューを組み合わせ、好みのコースに仕立てられるのが楽しい。店内はシンプルであたたかみがあり、リラックスしながら食事を楽しめる。火曜定休。
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駒沢『IL GiOTTO』のオーナシェフ・高橋直史さんが焼きを極めた熟成肉の凄み

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石黒由紀子
エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなしあわせを綴るほか、女性誌やWEBに、ペットや本や映画のリコメンドを執筆。楽しみは、散歩、旅、おいしいお酒とごはん、音楽。近著は『楽しかったね、ありがとう』(幻冬舎) http://www.blueorange.co.jp/yuruyuru/index.htm

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