更新日:
2019年11月07日
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恵比寿『Le Coq』の和栗のモンブランは、渾身の力で絞り出すからフワ軽でおいしい
料理のプロにも一目置かれる比留間光弘さんがシェフを務める恵比寿『Le Coq』は、知る人ぞ知るフレンチの名店。デザートまで抜かりないこの店の隠れた名物はフワ軽がたまらない「和栗のモンブラン」です。……一流の料理人が自ら愛用する3つの道具へのこだわりを語り、料理への哲学を詳らかにする連載『料理のプロの三種の神器』です。(全3話・後編/2019年11月7日公開)
- 石黒由紀子
- エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなし...
大切な人とずっと長く通いたい——そう思わせるフレンチ・恵比寿『Le Coq』。席数12。シェフの比留間光弘さんと、サービスを担当する奥さま、真由美さんのふたりだけで切り盛りする小さなレストラン。基本に忠実、でも独創性あふれる比留間さんの料理には、味にこだわりを持つ食通なファンが多い。料理と道具のはなしをじっくりと伺った。(全3話・後編)
『Le Coq』の和栗のモンブランの真の主役はメレンゲとクリーム
モンブラン。
これまで数えきれないほど食べてきているはずだけど、作り方や使う道具について、考えたことなどなかった。
自分でも呆れるけれど、まぁ、なんとぼんやり食してきたことか。
比留間さんのモンブランを食べてみると……あぁ、しみじみと、おいしい。
料理をレポートするときに、安直に「おいしい」などと書くのは禁じ手だが、もう「おいしい!」しか言葉が出ない。むしろ、他の言葉を使うと嘘っぽくなりそうな気さえして。
これまで数えきれないほど食べてきているはずだけど、作り方や使う道具について、考えたことなどなかった。
自分でも呆れるけれど、まぁ、なんとぼんやり食してきたことか。
比留間さんのモンブランを食べてみると……あぁ、しみじみと、おいしい。
料理をレポートするときに、安直に「おいしい」などと書くのは禁じ手だが、もう「おいしい!」しか言葉が出ない。むしろ、他の言葉を使うと嘘っぽくなりそうな気さえして。

サックリと軽めのメレンゲは甘く、その上に乗った生クリームは甘さ控えめ。そして、ひも状の栗のクリームの味わいは濃厚。丁寧に作られたそれぞれの味のバランス、ハーモニー。シンプルだからこそ、3つの味が引き立つ。
モンブランモンスターとなり、あっという間に食べてしまった。まだ、あと2つくらいは食べられる。これならば、甘いものが苦手な男性にも喜ばれそう。
「茨城県産の和栗を使っています。モンブランって、よく考えられたお菓子だと思います。栗が主役と思われがちですが、栗だけでは重くなる。メレンゲとクリームをおいしく食べるために栗がある、という感覚で作っています。栗のクリームは空気を含ませて食感よく仕上げます」
モンブランモンスターとなり、あっという間に食べてしまった。まだ、あと2つくらいは食べられる。これならば、甘いものが苦手な男性にも喜ばれそう。
「茨城県産の和栗を使っています。モンブランって、よく考えられたお菓子だと思います。栗が主役と思われがちですが、栗だけでは重くなる。メレンゲとクリームをおいしく食べるために栗がある、という感覚で作っています。栗のクリームは空気を含ませて食感よく仕上げます」

ご存知のように「モンブラン」とは、フランスとイタリアの国境にそびえるアルプス山脈の山。フランスから望むと丸みを帯びた形に、イタリアから見ると鋭く尖った形に見える。
フランスで修行した比留間さんが作るモンブランはドーム型。イタリアンのモンブランの形には円すいや角すいが多い。
フランスで修行した比留間さんが作るモンブランはドーム型。イタリアンのモンブランの形には円すいや角すいが多い。
渾身の力を込めて、フワ軽の栗を絞り出す

ところで、比留間さんが使っているモンブランの栗を細く絞る道具、アルミでできた大きな注射器のようなその道具、名称は? そもそも普通に売られているのだろうか。
似たものが和菓子用の道具にあるらしいが、日本では絞り袋にモンブラン専用の口金をつけて絞るのが一般的だ。
「名称は……モンブラン絞り器ですかねぇ。たしかに、日本では見かけたことがありません。これはフランスの道具で、パティシエの友人からもらったんです」
お菓子作りを手伝ったときに、「自分のお店でもモンブランを作って、お客さまに出してみようかな」という話をしたら、「それなら、これをあげるよ」とプレゼントしてくれたのだそうだ。
「友人のパティスリーは大きなお店で、モンブランの栗は専用の機械で絞っていました。でも、その機械がときどき壊れることがあって、手動で絞るために用意していた絞り器をくれたんです」
似たものが和菓子用の道具にあるらしいが、日本では絞り袋にモンブラン専用の口金をつけて絞るのが一般的だ。
「名称は……モンブラン絞り器ですかねぇ。たしかに、日本では見かけたことがありません。これはフランスの道具で、パティシエの友人からもらったんです」
お菓子作りを手伝ったときに、「自分のお店でもモンブランを作って、お客さまに出してみようかな」という話をしたら、「それなら、これをあげるよ」とプレゼントしてくれたのだそうだ。
「友人のパティスリーは大きなお店で、モンブランの栗は専用の機械で絞っていました。でも、その機械がときどき壊れることがあって、手動で絞るために用意していた絞り器をくれたんです」

実際に使って見せてもらうと、脇の下に絞り器を押し付けて、上半身の力をかけてぐいっと押し込む。まるで身体を鍛えているかのような力強い動きだ。
スイーツ作りといえば、どちらかというと繊細で優雅な動作を想像するが、これは肉体労働のようでもある。
「モンブランの栗のクリームは、ふわっとやわらかく仕上げていますが、本来、栗って固いものですよね。それを一気に絞って、しかも空気を含ませてふわりと出すわけですから、力をかけなくてはらないんです。絞り出す穴も小さいので、一気に圧力をかける感じです」
使う道具が違うとやはり味も格別なのか、この和栗モンブランにはファンが多い。
以下、ホールで接客にあたる奥さま・真由美さんの証言。
「厨房から生クリームを泡立てる音が聞こえてくると『あ! もしかしてモンブラン?』と反応してくださる方もいらっしゃいます」
その気持ち、わかるわかる。
スイーツ作りといえば、どちらかというと繊細で優雅な動作を想像するが、これは肉体労働のようでもある。
「モンブランの栗のクリームは、ふわっとやわらかく仕上げていますが、本来、栗って固いものですよね。それを一気に絞って、しかも空気を含ませてふわりと出すわけですから、力をかけなくてはらないんです。絞り出す穴も小さいので、一気に圧力をかける感じです」
使う道具が違うとやはり味も格別なのか、この和栗モンブランにはファンが多い。
以下、ホールで接客にあたる奥さま・真由美さんの証言。
「厨房から生クリームを泡立てる音が聞こえてくると『あ! もしかしてモンブラン?』と反応してくださる方もいらっしゃいます」
その気持ち、わかるわかる。
試行錯誤の末、たどり着いた境地

『Le Coq』の料理には「これほどに素材を生かすフレンチがあったのか」と感じ入ってしまう力がある。
ディテールを大切にしたていねいな仕事、堂々と直球。これと決めた道具は長年使い続ける一途さ。日々を積み重ねるおだやかな根気。
「独立した30代半ばは『あれもやりたい、これもやってみよう』と欲張った」
比留間さんにもそんな時期があったのだそう。それがだんだん落ち着いて、整理されて、本当にやりたいことが見えてきたのは40歳をすぎてから。
「料理も厨房も道具も、自分のペースで納得がいくようにと思って。今がちょうどいいですね」
料理は人の鏡なのだ。目には見えない、大切な想いがこもっている。
(全3話・了)
ディテールを大切にしたていねいな仕事、堂々と直球。これと決めた道具は長年使い続ける一途さ。日々を積み重ねるおだやかな根気。
「独立した30代半ばは『あれもやりたい、これもやってみよう』と欲張った」
比留間さんにもそんな時期があったのだそう。それがだんだん落ち着いて、整理されて、本当にやりたいことが見えてきたのは40歳をすぎてから。
「料理も厨房も道具も、自分のペースで納得がいくようにと思って。今がちょうどいいですね」
料理は人の鏡なのだ。目には見えない、大切な想いがこもっている。
(全3話・了)

比留間光弘(ひるまみつひろ)
19歳で渡仏し、パリ『ル・ムフレット』『ギィ・キャルトン』など、パリの3つ星を中心に8年半の修行を経て帰国。会員制レストラン『Q.E.D.クラブ』の料理長をつとめ、97年に東京・世田谷に『Le Coq』を開店。08年に恵比寿に移転。右は夫人の真由美さん。
19歳で渡仏し、パリ『ル・ムフレット』『ギィ・キャルトン』など、パリの3つ星を中心に8年半の修行を経て帰国。会員制レストラン『Q.E.D.クラブ』の料理長をつとめ、97年に東京・世田谷に『Le Coq』を開店。08年に恵比寿に移転。右は夫人の真由美さん。

(写真=松園多聞 Matsuzono Tamon)
恵比寿『Le Coq(ルコック)』
夫婦で営む座席数12の小さなフレンチレストラン。ミシュラン1つ星を獲得。東京・世田谷で10年営業したのち、2008年から恵比寿に移転。品よくアットホームな雰囲気に、息の長いファンが多い。おまかせコースは8,000円から。不定休。
夫婦で営む座席数12の小さなフレンチレストラン。ミシュラン1つ星を獲得。東京・世田谷で10年営業したのち、2008年から恵比寿に移転。品よくアットホームな雰囲気に、息の長いファンが多い。おまかせコースは8,000円から。不定休。
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- 石黒由紀子
- エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなしあわせを綴るほか、女性誌やWEBに、ペットや本や映画のリコメンドを執筆。楽しみは、散歩、旅、おいしいお酒とごはん、音楽。近著は『楽しかったね、ありがとう』(幻冬舎) http://www.blueorange.co.jp/yuruyuru/index.htm
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