更新日:
2019年12月24日
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予約の取れない独創的な南方中華、荒木町『南三』の肉や魚に奥行きをもたらす「燻製器」
荒木町『南方中華料理 南三』は中国辺境に着想を得た独創的な料理で、オープン1年にして予約の取れない名店に成長。オーナーシェフ水岡孝和さんが2番目に挙げたこだわりの道具は中国湖南省にインスパイアされた「燻製器」です。——一流の料理人が自ら愛用する3つの道具へのこだわりを語り、料理への哲学を詳らかにする連載『料理のプロの三種の神器』です。(全3話・中編/2019年10月16日公開)
- 石黒由紀子
- エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなし...
2018年5月のオープンから1年にして予約が取れない店に成長。「枠にはまらない中華料理」と評判の店『南方中華料理 南三』。店主の水岡孝和さんは、中国各地を旅してマニアックな食材や郷土料理に出会い、それらを自分のフィルターにかけて追求、唯一無二の中華料理に昇華させた。ストイックな料理人・水岡さんの料理と、日頃から愛用する道具について伺った。(全3話・中編)
こだわりの薫香が味の奥行きをもたらす「秋鮭とキノコの蒸し物」
素朴な山の香りとともに運ばれた皿からは、ふわりふわりとやさしげな湯気。「秋鮭とキノコの蒸し物」だ。
キノコの山を彩っているのは、漢方などでも重宝される冬虫夏草。鮮やかなオレンジが秋の野山の彩りのように見える。
キノコはマイタケにキヌガサダケなど。その中から、おっとりと顔を出す秋鮭はスモークされている。
キノコの山を彩っているのは、漢方などでも重宝される冬虫夏草。鮮やかなオレンジが秋の野山の彩りのように見える。
キノコはマイタケにキヌガサダケなど。その中から、おっとりと顔を出す秋鮭はスモークされている。

まずは、大きめにカットされたキノコを口いっぱいにほおばる。たっぷりとスープを吸い込んだキヌガサダケを口に含めば「これこそが秋の味!」と思える。
あごの骨にまで届くマイタケの食感、そこにふわっと鮭のやさしい味わいが乗り、旨味相乗効果。シンプルだからこそ、素材、味、香り、食感を深く堪能できる。
「中国のキノコは香りが強すぎるので、日本で生産されたものを使っています。マイタケから旨味を出して、鮭からは薫香をスープに移すのがこの料理のポイント。素材は繊細な日本のものを使い、調味料は中国のもの。いいとこ取りというわけです」
燻製は温度調節が重要で、温燻、冷燻などあるが、鮭は温度低めの燻製にして蒸す。これもまた、ソーセージと並んで手間と時間をたっぷりとかけた料理だ。
あごの骨にまで届くマイタケの食感、そこにふわっと鮭のやさしい味わいが乗り、旨味相乗効果。シンプルだからこそ、素材、味、香り、食感を深く堪能できる。
「中国のキノコは香りが強すぎるので、日本で生産されたものを使っています。マイタケから旨味を出して、鮭からは薫香をスープに移すのがこの料理のポイント。素材は繊細な日本のものを使い、調味料は中国のもの。いいとこ取りというわけです」
燻製は温度調節が重要で、温燻、冷燻などあるが、鮭は温度低めの燻製にして蒸す。これもまた、ソーセージと並んで手間と時間をたっぷりとかけた料理だ。

燻製料理、水岡さんは中国湖南省でインスパイアされた。湖南料理は中国8大料理のひとつに数えられ、辛さと酸味が効いた料理が特徴だが、燻製の文化もある。
保存食とする干し肉を燻製にすることがよくあるそうだ。湖南省の市場にある素材は豊か。はじめて出会う味があり、発見も多い。
おもしろい食材や料理に出会ったときに「これをもっとおいしくするには」と、イメージを膨らませ、自分の中にある引き出しから、あれこれ引っ張り出してみる。
「これまでインプットしてきたものは、系統立てて頭の中の引き出しに入っています。それをどう組み合わせてアウトプットしていくかが腕の見せどころ。味の記憶と経験と知識、その編集作業をしているという感じですね」
保存食とする干し肉を燻製にすることがよくあるそうだ。湖南省の市場にある素材は豊か。はじめて出会う味があり、発見も多い。
おもしろい食材や料理に出会ったときに「これをもっとおいしくするには」と、イメージを膨らませ、自分の中にある引き出しから、あれこれ引っ張り出してみる。
「これまでインプットしてきたものは、系統立てて頭の中の引き出しに入っています。それをどう組み合わせてアウトプットしていくかが腕の見せどころ。味の記憶と経験と知識、その編集作業をしているという感じですね」
中国では省の境目にこそ美味しさのヒントがある
日本で中華料理というと、一般的に広東料理か四川料理が多い。中国本土でもそれはおおむね同じ。
「でも、細かくいろんな地方に出かけてみると料理は多彩です。雲南ではハーブやスパイスをよく使っていたり、山間部に行くと発酵食があったり。本当にさまざまなんですよ」
確かに、狭い日本であっても地方によって食文化はさまざま。まして、56もの民族が暮らす広大な中国大陸ともなれば……。
「僕は、特に省の境目、境界線を攻めるのが好きでなんです」
水岡さんは、ふたつの地方の文化が混ざりあった場所で刺激を受けることが多い。そこでは、いいケミストリーに出会うから。スパイスを足したり調理法を変えたり、ピンと来たことはどんどん試す。
旅先で食べた味にアレンジを加えながら、新しい料理として再構築、そうしてできたのが『南三』の料理なのだ。
「秋鮭とキノコの蒸し物」も湖南省で食べた燻製からヒントを得た。そして、このメニューに欠かせない道具が燻製器。
「でも、細かくいろんな地方に出かけてみると料理は多彩です。雲南ではハーブやスパイスをよく使っていたり、山間部に行くと発酵食があったり。本当にさまざまなんですよ」
確かに、狭い日本であっても地方によって食文化はさまざま。まして、56もの民族が暮らす広大な中国大陸ともなれば……。
「僕は、特に省の境目、境界線を攻めるのが好きでなんです」
水岡さんは、ふたつの地方の文化が混ざりあった場所で刺激を受けることが多い。そこでは、いいケミストリーに出会うから。スパイスを足したり調理法を変えたり、ピンと来たことはどんどん試す。
旅先で食べた味にアレンジを加えながら、新しい料理として再構築、そうしてできたのが『南三』の料理なのだ。
「秋鮭とキノコの蒸し物」も湖南省で食べた燻製からヒントを得た。そして、このメニューに欠かせない道具が燻製器。

湖南の燻製文化に触れる前から燻製を作るのが好きで、アウトドアなどでよく作っていた。ワインなどお酒にも合うので、『南三』にも肉や魚介類など燻製にしたものを蒸したり、焼いたりするメニューがある。
「お店を開業したら、燻製を使った料理を出したいと思っていました。正直なところ、保存性が高いので食材のロスを減らせるのもありがたい。そこで、素材や燻製法なども研究しました」
燻製器には木製と鉄製があるが、水岡さんは木製派。大きさは高さ70cmほどの箱型。
「それほど高温で燻さないので、鉄製である必要がないんです。そして、軽くて持ち運びが便利だということで選びました。1年くらい前に、メーカーから取り寄せました。1週間に1~2回の割合で使います」
ちなみによく使うウッドチップは、桜とりんご。
鮭を燻製にする場合は、燻製器の中の温度を上げすぎないように気をつける。そのため、燻製にしている途中で氷を乗せたパッドを燻製器に入れて煙の温度を下げるのだ。
「これをしないと、せっかくの鮭に熱が入りすぎてパサパサになってしまうんです。そんな小技を利かせられる点も、この燻製器を気に入っている理由ですね」
「お店を開業したら、燻製を使った料理を出したいと思っていました。正直なところ、保存性が高いので食材のロスを減らせるのもありがたい。そこで、素材や燻製法なども研究しました」
燻製器には木製と鉄製があるが、水岡さんは木製派。大きさは高さ70cmほどの箱型。
「それほど高温で燻さないので、鉄製である必要がないんです。そして、軽くて持ち運びが便利だということで選びました。1年くらい前に、メーカーから取り寄せました。1週間に1~2回の割合で使います」
ちなみによく使うウッドチップは、桜とりんご。
鮭を燻製にする場合は、燻製器の中の温度を上げすぎないように気をつける。そのため、燻製にしている途中で氷を乗せたパッドを燻製器に入れて煙の温度を下げるのだ。
「これをしないと、せっかくの鮭に熱が入りすぎてパサパサになってしまうんです。そんな小技を利かせられる点も、この燻製器を気に入っている理由ですね」
失敗の理由をとことん突き詰めて工夫を重ねて努力する

中には棚が付いているが、取りはずせば、箱の天井から肉の塊を吊るし、脂を落としながら燻製にすることができるのもいい。
道具をよく知って、臨機応変に使いこなすのも料理人の腕。だが、そこには膨大な試行錯誤があったに違いない。
「失敗には失敗するだけの理由があるんです。それをとことん突き詰めます。理由がわかったら、次に、工夫を重ねて努力。僕はゲームも大好きなんですが、難易度が高いほうが燃えますね。燻製も一緒です」
膨大な料理の情報のストックを自在に引き出し、水岡流の工夫を加えて進化をやめず、難敵を理詰めで倒す。そんな人が作る料理、おいしいに決まっている。
(後編に続く)
道具をよく知って、臨機応変に使いこなすのも料理人の腕。だが、そこには膨大な試行錯誤があったに違いない。
「失敗には失敗するだけの理由があるんです。それをとことん突き詰めます。理由がわかったら、次に、工夫を重ねて努力。僕はゲームも大好きなんですが、難易度が高いほうが燃えますね。燻製も一緒です」
膨大な料理の情報のストックを自在に引き出し、水岡流の工夫を加えて進化をやめず、難敵を理詰めで倒す。そんな人が作る料理、おいしいに決まっている。
(後編に続く)

水岡孝和(みずおかたかかず)
渋谷の「天厨菜館」から料理人としてのキャリアをスタート。その後、「A-Jun」 「桃の木」「黒猫夜」と都内の中華の名店を経て、台湾へ語学留学。20歳前半から中国各地を旅するようになり、現地で食した郷土食からヒントを得て新しい中華料理を確立。2018年5月に『南三』をオープンさせる。現在も年に2~3度は渡中し、研究に余念がない。
渋谷の「天厨菜館」から料理人としてのキャリアをスタート。その後、「A-Jun」 「桃の木」「黒猫夜」と都内の中華の名店を経て、台湾へ語学留学。20歳前半から中国各地を旅するようになり、現地で食した郷土食からヒントを得て新しい中華料理を確立。2018年5月に『南三』をオープンさせる。現在も年に2~3度は渡中し、研究に余念がない。

四谷・荒木町『南三』
中国の中でも雲南、湖南、そして台湾は台南の料理をベースした料理店。中華といえば、餃子やエビチリという概念を覆し、山海の素材を活かすパーブやスパイスを利かせた中華料理が味わえる。2018年5月にオープン。その直後から「こんな中華はじめて!」とグルメたちをざわつかせ、たちまち予約困難な人気店となる。料理は「おまかせコース」6,000円(税抜)のみ。予約情報はFBにて。
中国の中でも雲南、湖南、そして台湾は台南の料理をベースした料理店。中華といえば、餃子やエビチリという概念を覆し、山海の素材を活かすパーブやスパイスを利かせた中華料理が味わえる。2018年5月にオープン。その直後から「こんな中華はじめて!」とグルメたちをざわつかせ、たちまち予約困難な人気店となる。料理は「おまかせコース」6,000円(税抜)のみ。予約情報はFBにて。

(写真=松園多聞 Matsuzono Tamon)
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- 石黒由紀子
- エッセイスト。日々の暮らしの中にある小さなしあわせを綴るほか、女性誌やWEBに、ペットや本や映画のリコメンドを執筆。楽しみは、散歩、旅、おいしいお酒とごはん、音楽。近著は『楽しかったね、ありがとう』(幻冬舎) http://www.blueorange.co.jp/yuruyuru/index.htm
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